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麹というのは、実に不思議な存在だと思います。

日本の発酵食品の多くが、麹の力でできています。
味噌・醤油・日本酒・酢・みりんなど、麹がなければ成立しないものばかりです。

たとえば日本酒を造るときには、「麹」の出来が酒の出来を左右するといわれています。

杜氏(とうじ)の最も大切な仕事は、よい麹をつくること。

ここでいう「麹」とは、米に麹菌を生やしたものを指します。

水分や温度を細かく管理しながら、麹菌の働きによって米が分解されて出てくる香りを頼りに、麹をつくるのだそうです。

こうして出来た麹が酒の材料である米のデンプンを糖に変え、その糖を酵母がアルコールに変えて、日本酒ができあがります。

日本の「国花」はサクラ、「国鳥」はキジですが、では「国菌」は何でしょう?

そう、麹菌です。

日本を代表する菌として、2006年の日本醸造学会大会で認定されています。

麹菌は、わたしたちにとって最も身近な菌なのです。

ここで、麹菌の生物学的な顔を紹介させてください。

和名を「ニホンコウジカビ」といいます。

なんと、カビの仲間なんですね。

名前に「ニホン」がついていることからも、麹菌が日本で独特の地位を築いている「国菌」であることに納得がいきます。

海外に目を向けると、パンやビール・ワインなどの発酵に使われるのは酵母、ヨーグルトやキムチなどを作るのは乳酸菌、ブルーチーズやカマンベールチーズには青カビや白カビです。

麹菌を使って発酵食品を作っているのは、日本だけなのです。

カビや菌の働きによって、人にとってよくないものができることを「腐敗」と呼びます。

しかし、同じようにカビなどの働きで人にとっていいものができると「発酵」です。

食品が発酵すると旨味や甘味が増し、栄養価が高まるだけでなく、保存もきくようになります。

発酵って、すごいですね。

日本各地にある「麹屋」さんは、麹菌のうち味噌や酒づくりに特に適したものを選別し、大切に保存しています。

どこの家でも味噌を作っていた昭和のはじめ頃までは、日本中に麹屋さんがありました。

麹屋さんから目的にあった麹を買って、安全で安定した品質の発酵食品を作っていたのです。

そもそも、島根県は日本酒発祥の地といわれています。

日本酒に関する最古の記録は、古事記や日本書紀に書かれているヤマタノオロチの物語です。

この物語の中で、暴れるヤマタノオロチを退治するためにスサノオノミコトがアシナヅチ・テナヅチに用意させたのが「ヤシオリの酒」。

島根で盛んな石見神楽の中でも、旨い酒をたらふく飲んでふらふらしているヤマタノオロチの首を、スサノオノミコトがえいやと切り落とす勇壮なシーンは、最も観客を沸かせる見せ場のひとつです。

今も島根の自然の中には、ヤシオリの酒を醸した麹菌の末裔がひっそりと生きているのかもしれません。

誰にも知られていない野生の麹を見つけられたらおもしろい、とわたしはワクワクしていました。

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