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 食べ物を放置しておくといつの間にか、色とりどりのカビが生えてきます。

 空気中を漂っているカビの胞子が食べ物につき、その食べ物を栄養源にして増殖し、カビの体を作っていきます。

 このとき、おそらくさまざまな種類のカビ胞子がつくのですが、その環境に適したカビだけが勢いよく増えることになるでしょう。

普通のカビではなく、麹菌を採取するにはどうすればいいのでしょうか。

 文献を探してみると、室町時代には蒸した米にカシの木や椿の木の灰をまぶしておき、麹菌を採取していたようでした。

 木の灰はアルカリ性で、山菜のアク抜きや酸性土壌の中和にも使われています。

 他のカビの勢いを抑えて麹菌だけを採るためには、アルカリ性の環境が向いているようです。また、採取に適しているのは、菌の活動が最も活発になる夏だということもわかりました。

次は、麹菌を採取するための蒸し米の用意です。

 自然栽培で作られたササシグレという米を木村さんのお店から取り寄せました。 ササニシキの父系品種で、とても旨い米です。

もちろん水にもこだわりました。

 島根県雲南市にある「須我神社(すがじんじゃ)」は、スサノオノミコトによって造られたと伝えられている、日本初の宮殿、日本初の宮です。(和歌発祥の地とも言われています)

この神社の奥宮にある禊場の水で、米を蒸しました。

 もし、ヤシオリの酒を醸した麹菌の末裔がいるのなら、この水に呼び寄せられてくれるのではないか、そんな期待がありました。

 野生麹を採るための準備は完了です。 虫や動物たちに荒らされないよう、蒸し米を高い場所につるして、リンゴ畑がある森の中のあちこちに仕掛けて麹菌がおりてくるのを待ちました。

 

リンゴの木に。

リンゴの木の近くに。

畑の脇の森に。

 森の奥深くまでどんどん範囲を広げていって、やがて採集場所は20箇所ぐらいになりました。


麹菌はすぐに見つかるだろうと思っていました。

しかし、どこに仕掛けた米にも、麹菌らしいものは生えてきません。

写真で見る麹菌は、うすい抹茶のような緑色です。

しかし、蒸し米に生えたのは黒いカビのようなものばかりでした。(おそらく黒コウジカビ)

 わたしは、さらに範囲を広げて探すことにしました。 山の中を歩き回り、考えつく限りさまざまなところに蒸し米を仕掛けましたが、やはり麹菌は見つかりません。

 リンゴの自然栽培に続いて、また大変なことを始めてしまったのかもしれない、と思いました。 これだけ探しても出てこないのは場所が悪いのか、方法が悪いのかとだんだん弱気になっていきます。

「この山には、麹菌はいないのかもしれない。」

 他にどこを探せばいいのかと途方に暮れ、麹に詳しい人にアドバイスを求めたいとあちこちを調べました。 島根県の産業技術センターや、広島県の研究所や他県の施設などにも聞いてみましたが、収穫はゼロでした。今の時代は麹は買う物であって、採集する物では無いと言うことです。

2か月ほどそんなことを繰り返していたある日、わたしは夢を見ました。

 大雨が降った日でした。 誰かがわたしを手招きしています。 その人のいる場所は、ぼんやりとしていてよく見えません。

どこだろう。

 どうやらそこには、池があるようです。 滝から水が流れていて、シダのような植物が斜面を覆っているように見えました。

ハッとしました。 そうだ、水だ。

麹菌は、水の流れるところにいるのではないだろうか。

 目を覚ましたわたしの頭には、ある場所がはっきりと浮かんでいました。 まっすぐそこへ向かい、蒸し米を仕掛けて祈るように待ちました。

3日過ぎ、5日が過ぎ、1週間経ちましたが、蒸し米にはなんの変化もありませんでした。

「ここもダメかな」 「うーん。ちくしょーなんだったんだあの夢」

とため息をつきながら、変化の無かった蒸し米を容器ごと事務所に持ち帰り、それでもと念のため重ねて分かるように置いておきました。

 さらに数日後、なんとなく容器の中をもう一度確認したくなり、見てみた瞬間、心臓がどくんと打ったのがわかりました。

他の菌に混じって、抹茶のような色をした半径1cmほどのコロニー(!)ができています。

「わわわ!これ麹じゃん!」「正夢だったかやっぱり!」「すげー!」

今までに見てきた菌とは見た目が違い、麹のそれとそっくりです。

しかし、こんなに小さなコロニーでは麹菌かどうかを確かめるのには少なすぎます。

 わたしはそっとそのコロニーをピンセットでつまみ、新しく用意した蒸し米の上にのせました。 そして保温器で培養をすること3日。毎日、ドキドキしながら保温器の様子を見ました。

3日くらいで米全体に、びっしりと緑の菌がついてきた写真がこれです !

わたしはこれは間違いなく探していた麹菌だと確信しました。

 しかし、同じ場所で麹菌だけ何度も採れるような再現性がなければ話にならないなと思い、あらためてもう一度、同じ採集ポイントに行き、その近くの数か所に蒸し米を仕掛け直すことにしました。

毎朝、祈りながら様子を見に行きました。

「どうか出てきますように」「山の神様よろしくお願いいたします」

すると一箇所に強い反応があり、約一週間ぐらいで 米全体に、びっしりと緑の菌がついてきました。

「ありがとうございます!キタキタキターーー!」

「ここかー!この場所か!探していた場所は」

 この前の小さなコロニーは、大雨のあとで菌が近くに飛び散っていたのを、たまたま拾ったものだったのでしょう。

ここにいるよ、見つけてよ、という菌からのサインだったのかもしれません。

麹採集の再現性が確認できたので次は菌の毒性検査です。

 全く知識が無いところからの研究施設探しなので、知人に聞いたりして探しましたが、麹に対しての知見が無いところが多く、断られたり、とんちんかんなことを言われたりと結構苦労しました。

 しかし、Googleで検索してみると何社かリストに出てきてそのうちの一社、群馬の(株)食環境衛生研究所にお願いしました。 7項目の検査をお願いして結果は全て不検出。毒性は0の菌だと証明されました。 大丈夫だろうとは思っていましたが、よい結果が出てほっとしました。

さあ次は糖化試験です。この麹菌がアミラーゼ(酵素)を持っているかどうか甘酒をつくって確かめます。 麹菌から米麹をつくり、水をくわえて温度を60°に設定して待つこと24時間...

食べてみると

「甘っ!」


 緑の米麹からつくったので色が付いていますが確かに甘いおかゆ状の甘酒が出来ました。 市販の甘酒のように液体になるのかと思いましたがおかゆのような出来上がりなので、水を足したり、糖化時間を延ばしたりしてもあまり変わりません。

結局、米麹を粉末状にして糖化していることがわかり粉砕器を購入しました。

毒性試験もOK!糖化試験もOK! わたしが見つけた菌は、紛れもなく野生の麹菌でした。

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